さよなら妖精
さよなら妖精 東京創元社
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/06/10
- メディア: 文庫
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主人公守屋ら高校生たちとユーゴスラビアからきたマーヤとの交流と日常の謎を扱った青春ミステリ。
推理、ミステリーの紹介が多いがこれは推理抜きでも青春のちくちくした感情を思い起こさせる格別の作品なのでお許しください。
日本の文化に興味を持ち些細な疑問を投げ掛けるマーヤ。氷菓で言う千反田えるのポジションだ。
それに対して物事に対して積極的じゃないが推理力の高い守屋は氷菓で言う折木奉太郎だ。
日常の謎を解きながら親交を深める高校生たち。守屋はマーヤの故郷、ユーゴスラビアへの思いを馳せる。
物語はマーヤが帰国するところから動き出す。異国への思いを募らせた守屋は自分を連れて行ってくれと頼むがマーヤに断られる。
旅立ったマーヤ。残された高校生たちに限らず読者も同年代のマーヤがとても大人に見え今の自分を振り返らずにいられない気持ちになる。
マーヤはユーゴスラビアのどこの地域なのか話していなかった。みんな推理する。紛争の多い国だ。
クロアチアやボスニアヘルツェゴビナは紛争真っ只中のため消去、おそらくはセルビア・モンテネグロあたりで安全なはずと無事に安堵する。
守屋だけはマーヤとの会話でひとり結論にたどり着いていた。
ここまで。
読後のこの切なさはなんだ。立ち止まっている自分を思う。広大な世界へ飛び立つマーヤ、政治情勢どころか人々がたくさん命を落とし今も終焉の気配を見せない紛争地へそれでも帰らなければならないマーヤの思い。
見事に余韻に浸った。
おすすめします。
ターン
[小説][サスペンス]
北村薫の「時と人」三部作のひとつ「ターン」(他スキップとリセット)
ターン 新潮社
- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2000/06/28
- メディア: 文庫
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森真希の運転する車はセンターラインをオーバーしたトラックと正面衝突する。
気がつくと自宅のチェアーで今しがた目覚めたかのよう。家の様子は事故前と変わらない。
ただ目覚めた世界は誰一人いなかった。建物も見覚えのあるものだが車が走っていない、人のざわつき、鳥さえさえずらない。
自分しかいない、その事以外にわかったことは事故に遭った時間になるとまた自宅のチェアーに戻る。
時計も戻っていた。
この世界では何かを成し遂げようにも元に戻る。
幾度も繰り返した。
孤独に泣く真希。
そこに一本の電話が鳴る。
北村薫と言えば円紫さんシリーズも考えたが個人的にタイムトラベルものが好きなのでこちらを紹介する。
彼の著作は作品全体に優しさが包む。非常に丁寧に語られることから女性と間違われるが北村薫は男性作家だ。
誰もいないはずの世界に電話。電話主は泉洋平、真希は版画教室の講師で作品を使わせてほしいという仕事の電話だった。
泉の話しを聞くと泉の世界では真希は意識不明で病院で寝ているとのこと。どうやらそれぞれの世界に真希は存在しているようだった。
現実世界と繋がるこの電話は救いだ。
人も動物もいない、車も走らず喧騒もない音のない世界。
電話以外にいつもと違ったことがあった。
一台の車が走っていった。
ここまでにしておこう。
脱出の手掛かりとなる電話はあったがあの車に乗るのば誰か?なぜだろうか、当時読んでいて車が走ってることに「えっ」と真希と同じ感覚を覚えた。
基本優しい文で語られるが殺伐とした展開も後半少しある。
これは映画化もされる。生憎と未視聴だがキャストはすごい。
ハートウォームになる。
もはや文学だ!傑作おすすめ漫画10選
[コミック][セレクト]
予言者ピッピ
- 作者: 地下沢中也
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2015/03/13
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百万畳ラビリンス
- 作者: たかみち
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2015/11/11
- メディア: Kindle版
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姑獲鳥の夏
- 作者: 志水アキ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2013/08/25
- メディア: Kindle版
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マルドゥック・スクランブル
マルドゥック・スクランブル(1) (週刊少年マガジンコミックス)
- 作者: 冲方丁,大今良時
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/10/09
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七夕の国
- 作者: 岩明均
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/03/13
- メディア: Kindle版
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11人いる!
- 作者: 萩尾望都
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2014/08/25
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AKIRA
- 作者: 大友克洋
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1984/09/14
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風の谷のナウシカ
- 作者: 宮崎駿
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 1987/07/01
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天涯の砦
[小説][SF]
著者の小川一水はSFの中堅から大御所へと必ず昇るだろう。
SFと聞くと固有名詞が乱雑し難解な科学、果ては量子力学とそれらを確認し意味を飲み込もうならばページをめぐる手が止まり前に進まないどころか結局意味さえわからなかったりしないだろうか。
SFを読むコツとして固有名詞はそのまま読み進め理論はそういうのがあってそれが成り立つ世界と割り切ることだ。
みな機動戦士ガンダムに宇宙で簡単に方向転換できたり戦闘後のデブリ問題やみな上下があるかのように機体上部を敵味方揃えているのか考えないだろう。そこば流して視聴するものだ。
天涯の砦 早川書房
- 作者: 小川一水
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/01/24
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天涯の砦は地球と月を中継する軌道ステーション「望天」が壊滅的な事故により大部分が破壊される。多数の死者が漂う中、気密区画には数人の生存者が残された。互いコンタクトを取り脱出を試みるが。
パニックサバイバル。登場人物は癖のあるものが多く真空以外にも注意を払わなければならない。
SFに馴染めない人にも平易な用語と文章で読ませてくる。読書は「最後は脱出するかできないか」とゴール地点を想像出来て「それまでに色々問題が山積みなのだろう」と作品の全体像を容易に理解することが出来る。
これにより迷子にならない。話しがおおまかにわかるというのは安心して読めるものだ。
しかし作品内容はパニックサバイバル、良い意味で安心させない。救助を待とうにも「望天」は大気圏落下の軌道を取る。限られた酸素、人間のエゴと悪意。
扉の向こうは真空という恐ろしい現実。
人間模様は醜いものだ。利己か利他。助かりたいという思いはみな同じなのに助かるための手段や考えは違ったりするもの。
寝る前に読み始めたらきっと止められない。頑張って二日間に分けて読み終わった。
宇宙が題材だからSFと思わないでいい。ほんの近未来のサスペンスだ。読んでほしい。
TUGUMI
TUGUMI 中央公論社
- 作者: 吉本ばなな
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1992/03/01
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夏、旅館を営む伯母のもとに主人公まりあが行く。旅館には姉妹がいた。姉の陽子と妹のつぐみ。
主に主人公とつぐみの夏のひとときを描いた作品だ。
つぐみは病弱で学校も満足に行けず甘やかされて育った。よく言われる「粗にして野だが卑ではない」 といったところか。
言葉も乱暴だが行動も乱暴、つぐみの悪戯に周囲は手を焼いていた。
ただし容姿端麗で頭は良かった。
相手で態度をころころ変え攻撃的になれば口汚く抉るような言葉を投げかけた。
攻撃は実力行使でも見かけられる。作中落とし穴を掘り懲らしめる場面もある。
そんなつぐみに好意を寄せる男性ができる。主人公視点でつぐみの内面を語る。
心の移り変わりや理解に努める言葉の分析で読者にもつぐみの性格を少しずつ紐解く。
なんとも尖ったつぐみだがページが進むごとにいつしか魅力に変わる。
いいやつではない。粗野で表裏がないならまだしも前述通り裏はある。怒りは烈火の如く。
ただ彼女なりのルールはあるのだろう。
ふんわりした小説かと思いきやどこか影を感じるのも吉本ばなな。
文体を楽しみながらつぐみをひたすら観察している小説だ。
ムーン・パレス
[小説][純文学]
ムーン・パレス 新潮社 ポール・オースター
- 作者: ポール・オースター,Paul Auster,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1997/09/30
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主人公マーコの半生の物語。
マーコの肉親はすでに亡くなっており伯父が面倒を見ていてくれていたが伯父も亡くなる。
天涯孤独の身となったマーコは伯父から譲り受けた1000冊の本を読んではみたがそれも長く続かない。
やがて悲壮で孤独な環境の中で何をするでもなく朽ちていく。
わずかなお金を得るために本を売ってはみたがたかが知れた。
死を思う。
キティ・ウー。中国系留学生の女性に助けられる。
マーコは常に流されている。偶然出会ったウーもそうだし、その後会うことになるエフィングもそうだ。積極的に何か打開することをしなかった。
エフィングは車椅子の老人。作中唯一存在感のある人物だ。そこでマーコはエフィングに本を読み聞かせたり身の回りの世話をすることになる。
時折話す言葉すら印象深い。
マーコへの軽いイライラ感は村上春樹の「ぼく」に似ている。逆に「ぼく」がオースターに似せているのかもしれない。
たまたま、偶然、思いもよらず人と出会い行動する。
朽ちていく過程をありありと書いて読むのもありだと思ったがそうはならず、マーコはエフィングから実の肉親の存在を聞かされる。
当のエフィングもマーコの祖父だったが話すことはなかった。
マーコはたまたま聞いた肉親の話しから探しにいく。
出会いはすべて偶然であるとするなら良い方向にマーコを導いてるのかもしれない。
またマーコのアイデンティティーを確立するならばその行動は決まっていたのかもしれない。
その後も出会いその後も死別する。
着地点は読んでほしいが作品自体は好きだ。
そもそもオースターが好きなので彼と翻訳者の柴田元幸の相性や技量、言葉がマッチしているのはよかった。
モラトリアムから脱却していく様を読む青春小説。
オースターの作品は「シティ・オブ・グラス」「幽霊たち」「孤独の発明」「偶然の音楽」「リヴァイアサン」等。
どれも同じようなテンションで書かれている。
31歳ガン漂流
[日記][ノンフィクション
]
当時同い年で同じ地元生まれというだけで購入したブログをまとめた本。
31歳ガン漂流 奥山貴宏 ポプラ社
- 作者: 奥山貴宏
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2009/06/10
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風邪をこじらせたかと病院に往くと余命2年とガン宣告される。
余命云々は後に言われたのだろうが、先天的な要因による肺がんとのこと。
そしてブログに記録していくのだが記事はほぼ趣味に費やしている。
彼のブログは涙を誘わない。憐れみもお涙も全拒否した記事を投稿している。
もともと編集の仕事からフリーランスになった経歴のせいか読ませる文章や多岐にわたる趣味から話題に事欠かない。
バイクが好きでプラモデル、映像、音楽、PCを愛する。
時折病気ネタもある。吐いたらイチゴが消化されず出てきたなど、彼はガンだったのだと気づかせる。
それでも人生を謳歌するなどガンへの反骨で楽しんでる風ではなく、普段より奥山氏はこんな調子なのだろうと思わせるほど悪く言えばやはり他人の日記だ。
しかしプラモデルを組立て、ロックを聴きアルバムを絶賛する、それがとても俗で人間的で「生」の象徴と言ってもいい。
そう一喜一憂してる奥山氏が少し羨ましくもある。
この本は余命宣告の年に刊行された。
2年の余命なので刊行後も存命だ。
そして
32歳ガン漂流 Evolution 牧野出版
33歳ガン漂流 LAST EXIT 牧野出版
と続刊する。
33歳ガン ラスト・イグジットについては死後刊行される。
また本人の念願だった小説も刊行される。
ラスト・イグジットでは最後に吐露する。
死にたくないな。書店で会いたい。本屋でセットで買ってくれ。
もう死期を悟ったのだ。晩年と言ってもまだ30代だが、体を動かすのも苦痛で口頭でブログを書いてもらっていた。
読者は全く気づかす相変わらず映画やアーティスト
の話しを読み、執筆も精力的に進行していると錯覚する。
これだけ俗世間を愛したあまりにも人間的な奥山氏が死ぬだって?
最後の最後だけ空虚感を覚えた。
メディアの取材も受けていた。NHKでも特集が組まれ生前の奥山氏のご尊顔を拝見できる。いつの頃なのかだいぶ痩せていた。
この放送はVHSにて録画をしている。
普段通り過ごすことが死に抗っていたのかもしれないなと思う。普段通りと読者に思われることも。