書を食む六畳間

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天涯の砦

[小説][SF]

著者の小川一水はSFの中堅から大御所へと必ず昇るだろう。
SFと聞くと固有名詞が乱雑し難解な科学、果ては量子力学とそれらを確認し意味を飲み込もうならばページをめぐる手が止まり前に進まないどころか結局意味さえわからなかったりしないだろうか。

SFを読むコツとして固有名詞はそのまま読み進め理論はそういうのがあってそれが成り立つ世界と割り切ることだ。
みな機動戦士ガンダムに宇宙で簡単に方向転換できたり戦闘後のデブリ問題やみな上下があるかのように機体上部を敵味方揃えているのか考えないだろう。そこば流して視聴するものだ。

天涯の砦 早川書房

天涯の砦 (ハヤカワ文庫JA)

天涯の砦 (ハヤカワ文庫JA)

天涯の砦は地球と月を中継する軌道ステーション「望天」が壊滅的な事故により大部分が破壊される。多数の死者が漂う中、気密区画には数人の生存者が残された。互いコンタクトを取り脱出を試みるが。

パニックサバイバル。登場人物は癖のあるものが多く真空以外にも注意を払わなければならない。

SFに馴染めない人にも平易な用語と文章で読ませてくる。読書は「最後は脱出するかできないか」とゴール地点を想像出来て「それまでに色々問題が山積みなのだろう」と作品の全体像を容易に理解することが出来る。
これにより迷子にならない。話しがおおまかにわかるというのは安心して読めるものだ。

しかし作品内容はパニックサバイバル、良い意味で安心させない。救助を待とうにも「望天」は大気圏落下の軌道を取る。限られた酸素、人間のエゴと悪意。
扉の向こうは真空という恐ろしい現実。


人間模様は醜いものだ。利己か利他。助かりたいという思いはみな同じなのに助かるための手段や考えは違ったりするもの。

寝る前に読み始めたらきっと止められない。頑張って二日間に分けて読み終わった。

宇宙が題材だからSFと思わないでいい。ほんの近未来のサスペンスだ。読んでほしい。