書を食む六畳間

ブログ主ほむがおすすめ本や雑記を紹介

さよなら妖精

[小説][ミステリ]

米澤穂信と言えば「氷菓」が有名だろう。これは「氷菓」を発表していた読者層と毛色が違っていたため内容を変え紆余曲折を経て他の出版社、東京創元社から刊行された作品だ。

さよなら妖精 東京創元社

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

主人公守屋ら高校生たちとユーゴスラビアからきたマーヤとの交流と日常の謎を扱った青春ミステリ。

推理、ミステリーの紹介が多いがこれは推理抜きでも青春のちくちくした感情を思い起こさせる格別の作品なのでお許しください。

日本の文化に興味を持ち些細な疑問を投げ掛けるマーヤ。氷菓で言う千反田えるのポジションだ。
それに対して物事に対して積極的じゃないが推理力の高い守屋は氷菓で言う折木奉太郎だ。

日常の謎を解きながら親交を深める高校生たち。守屋はマーヤの故郷、ユーゴスラビアへの思いを馳せる。

物語はマーヤが帰国するところから動き出す。異国への思いを募らせた守屋は自分を連れて行ってくれと頼むがマーヤに断られる。

旅立ったマーヤ。残された高校生たちに限らず読者も同年代のマーヤがとても大人に見え今の自分を振り返らずにいられない気持ちになる。

マーヤはユーゴスラビアのどこの地域なのか話していなかった。みんな推理する。紛争の多い国だ。
クロアチアボスニアヘルツェゴビナは紛争真っ只中のため消去、おそらくはセルビア・モンテネグロあたりで安全なはずと無事に安堵する。

守屋だけはマーヤとの会話でひとり結論にたどり着いていた。

ここまで。


読後のこの切なさはなんだ。立ち止まっている自分を思う。広大な世界へ飛び立つマーヤ、政治情勢どころか人々がたくさん命を落とし今も終焉の気配を見せない紛争地へそれでも帰らなければならないマーヤの思い。

見事に余韻に浸った。

おすすめします。