書を食む六畳間

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幻獣少年キマイラ キマイラ 吼

[小説][SF]

懐かしいタイトル、これは小学生の頃読み始めシリーズを重ね30年以上経つが未だ完結されない大河物語だ。

幻獣少年キマイラ 夢枕獏 角川書店

完結されない理由はいくつかあるが大きく2つある。著者の夢枕獏がこの作品を愛し大事に執筆してるため。もうひとつは連載誌の度重なる休刊だ。こればかりは仕方ない。


さて、物語は主人公(後述)の大鳳吼が九十九三蔵と真壁雲斎と出会うあたりから動く。しなやかな体躯は武術の才が見てとれる。しかし性格は穏やか、内に暗いものを持っている。

このあたりから空手の描写が少しずつ出てくる。
全編通して格闘小説でもある。そこは夢枕獏。「餓狼伝」原作者だ。

ライバルの立ち位置にいるのは九鬼、恋のライバルは三蔵。三蔵に敵意を燃やす菊池。菊池に惚れた典善、武骨で空手有段者の阿久津をも倒す菊池、美麗な龍王院など登場人物はそう多くはない。

多くはない分ひとりひとり夢枕獏はスポットを当てそれがどれも魅力的に描かれている。

格闘が全編に渡るならこれらの登場人物の心の在りかたもまた全編に渡る。
それ故に全員が主人公と言っても過言ではない。

三蔵の兄、九十九乱蔵が主人公のスピンオフも刊行され、また絶大なカリスマ性を誇る龍王院宏が主人公の物語も刊行される人気だ。



さて、ぶっちゃけネタバレというかキマイラというくらいなので大鳳は化け物になることを書くのは許してほしい。
そう、理性を失いキマイラとなった鳳は心を委ねられた者たちから去っていく。
大鳳を救うのが変わらない骨格だ。
後半は壮大な話しになるので若干置いてけぼり感はある。

魅力は何と言ってもその文体。余白を存分に使い「間」を読ませる技術。
格闘シーンのスピード感や間合いを取るじりじりとした喉の乾くような鬩ぎ合い。

読ませ過ぎてお気に入りの登場人物エピソードをずっと読みたくなる。

夢中で読んだ至福の時代。

昔はメジャーなキマイラだったが現在知る人ぞ知るというマイナー気味な傾向。
きっとあと10年は完結せず新規に読まれるのを待っているはず。

現在出版元が変わっている。