書を食む六畳間

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屍人荘の殺人

[小説][ミステリ]

今回は比較的新しい本を。

「屍人荘の殺人」東京創元社

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

今村昌弘デビュー作にして4冠。

このミステリーがすごい!」1位
週刊文春ミステリーベスト10」1位
本格ミステリ・ベスト10」1位
「第18回本格ミステリ大賞」大賞
(上三段は2018年のもの)

なぜこれほどまでに受け入れられたのか。

ミステリファンの渇望に見事嵌まったのではないか。
日本で本格密室の起源は異論はあるだろうけど「十角館の殺人綾辻行人館シリーズだろう。
シリーズにしたことで読者は前提として同じ建築士による奇妙な館で密室殺人が起こり、探偵役はいつもの人と、新たな情報を頭に入れる必要なく肝心な密室、手法に専念できた。そして「十角館」の水準を期待してシリーズを制覇していく。

「十角館」は孤島の館を舞台にしてクローズドサークルを形成していた。
同作家の「霧越邸殺人事件」は吹雪で身動きが取れない邸宅が舞台だ。

クローズドサークルにより犯人も犠牲者も館にいる人物に限られる。

これにより余計な外部の人間の仕業や抜け道があったなどを排除する。勿論排除が鉄則だ。

そして「屍人荘の殺人」である。トリッキーを思わせるが実に妙手。

こればかりは記事で書けないのだけどクローズドサークル自体が必要だった。
いくら外が吹雪でも絶海の孤島でもそういう条件だと割りきれば忘れてもいいものだ、と言ったら少し乱暴かもしれない。

この設定をアリだと認められた。

みんな館に飢えていたのだ。

勿論綾辻氏の「館」シリーズから「館もの」は数知れず刊行されている。

編集部も読者も嗅ぎとったのだ。「屍人荘の殺人」という一見武骨な、しかし語感になにか胸のうちで鼓動を鳴らすような響きを。

「これ、あれかも」

さて、本題。訳ありなサークルに同行することになった主人公一同。

割りとページも早くクローズドサークルは始まる。
たらだらしないテンポの良さ。ページが進む。
作中の登場人物は作者から覚えやすい提案を出してくる。

館の登場、しかし外界とは隔離されてはいない。また遠くで野外フェスがあり数万という人間もいる。
サークルメンバーは直接フェスとは関係ない。

物語の核となる場面になるのか同時進行でとある理念のもとに謎の人物による仕掛けが行われる。

それが後になり舞台の一部となる。これだけではなんのことかさっぱりだろうが言えない。

噛み砕けば海であり吹雪になる。

そして無くてもいいものでもある。

ただ館から逃げるため吹雪に飛び込んでも致命的に殺傷的にならないように、また海を泳いでも致死的にではない。

海は館内には影響しない。

吹雪も館内をせいぜい冷やすだけだろう。

このミステリにおいてそう言えない絶望的に致命的な仕掛けとなっている。

少しバレに近くなってきたのでここまでにする。

そして賛否が分かれるところでもある骨格。

ただこれによりシリーズが可能な終り方を残したので次作を大いに期待したい。