砂の女
[小説][純文学]
はじめまして。元書店店長ほむです。
退職してからずいぶん時が経ちました。その後数年~数十年?本から遠ざかっていました。
職場が変わり読書に時間を割けなくなったからです。
それでもいつしか仕事にも慣れ要領よく自分の時間が取れるようになりまして
この1年少しずつ読書ができる頭になりました。
読書って読めないときは時間があっても頭に入らないものです。
このブログでは読書歴と復帰してから読んだ本を紹介したいと考えてます。
読書傾向は乱読、もしくはミステリーなどです。
「砂の女」安部公房 新潮社
- 作者: 安部公房
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/03
- メディア: 文庫
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著者の代表作にて傑作。書店に勤めていた頃は夏の文庫フェアの常連で、フェアじゃなくても書店の「常備」と同等の作品。映画化もされました。
主人公の男が昆虫採集で立ち寄った集落。そこは家々がみな窪んだ砂地の底にあった。
村人たちは今日はここで休みなさいと宿を勧める。
村人たちは縄梯子で出入りをしていた。男が穴の底に降りると一軒の家と女がいた。
一晩宿を借り翌朝になると縄梯子が外されていた。
初めから異質な舞台と謎多き設定。
魅せられるように読んだ。
砂はどこからともなく戸の隙間から入り込む。ざらざらと体にまとわりつくのを覚える。
砂は毎日穴から掻き出し外へ運ばなければ家が埋もれるという。
村人は男に永住を望んでいるのか、何か秘密を外に話されたくなかったからなのか、男は焦り脱出を試みるも失敗に終わる。
とてもクライミングできるような窪地ではくさらさらと壁が崩れる。
炎天下と砂の組み合わせ。汗に砂がつき服の中にも入り込みざらざらとした不快感がありありとイメージできる。
やがて男はこの環境に順応していく。
砂の窪地ではもちろん村人からの食事と水の配給がなければ生きていけない。女もいるのだ。
拷問されるわけでもなく家も食事もある環境であるなら人は慣れる。
いつしか女が妊娠した。
病院に運ぶため縄梯子が下ろされた。
そして外される様子もなく穴の上部で人の気配もない。
しかし男は逃げることをしなかった。
男は村の利益になるような装置を考えていてそれを話したかった。
集落を考え村人との連帯感を覚え女との将来を考えている。
数年後、男の妻から出された失踪届けは裁判所で男の死亡と認定された。
砂とは何だろうか。安部公房は現代社会に例えたとの意見もある。
みな抜け出したいがいずれ慣れてしまいそれを不幸と思わずそこに適した慣習や法律、サービスや商品を生み出し疑問すら頭から抜け落ちる。
とても皮肉めいた作品だ。
安部公房のこの奇怪設定はほかの著作も読みたくなるほど秀逸。
スマホからの更新なので長くは書きませんが世界各国で翻訳され映画化もされた作品。
ページ数も値段も手頃なのでぜひ一読を。